ロープを使って岩場を安全に通過する。

 

山では絶対事故をおこしてはいけない。 しかし一般の登山道にも難所はある。急坂くだりで前を向いて行こうか後ろ向きで行こうかとオロオロした経験は誰だってあるはずだ。

パーティーにバテてフラフラした者や初心者、子供がいる時は事故を起こさないように手をうたなくてはならない。漠然と“ロープ”が頭に浮かぶ。しかしロープの使い方といえば普通すぐ思いつくのは“落ちたら上からロープをたらす“くらいである。さて、これだけでいいものだろうか? 答えは“手遅れ”である。落ちてからではなく、“落ちる前に止める”のがロープの本来の役目である。

これから教えるロープワークはクライミングではない。ハイキングの必須科目である。また、これを読むだけではいけない。ちゃんと何度かは実際やって体験しておくことが大切である。なお分かり易くするために、あえて要点だけを記すことにする。

 

◎使う道具は、以下の9つ。

  共同装備:@直径8mm長さ30mの補助ロープ1

      (コージツにてドライタイプで4千円。)両端をそれぞれ8字結びで結び、これをメインロープにする。

  個人装備:A幅25mm長さ約33.5mのテープスリング1

      (コージツ切り売り)これを3回腹にまいてテープ結びで留めて簡易ハーネス(腰ベルト)にする。

B幅20mm長さ5.4mのテープスリング1

      (コージツ切り売り)これを半分に切って切り口をライターで焼結する。

       テープ結び120cmの輪を2つ作り、カウヒッチで簡易ハーネス左右につける。セルフビレイ、支点用スリングとして使う。

       Cカラビナ4個:ノーマルゲート2個、安全管付き2個。

      (ホームセンターのはダメ!コージツで買う。千円〜2千円)

       ノーマル2個をカウヒッチでスリングの末端につけ、簡易ハーネス左右に掛け、安全管2個を正面に全部通してつける。

D直径5mm長さ3mのロープスリング1

      (コージツ切り売り)これを半分に切って切り口をライターで焼結する。

       ダブルフィッシャーマン60cmの輪を2つ作り、プルージック用スリングとして二つ折りにしてカウヒッチで簡易ハーネス後につける。

E直径7mm長さ約5mのロープスリング1

      (コージツ切り売り)適当に切って捨て縄にしたり、お助け綱にする。

       FエイトカンまたはATC(コージツで2千円くらい)下降、確保に使う。

Gナイフ(ヒモをつける)とH100円ライター。これも必帯です。

 

◎ロープワークとは、

基本は3つ。   @壊れない支点に

A切れないロープを使って

Bほどけないように体をつなぐ ことである。

説明すると、

@壊れない支点とは、

プルージックでブッシュをたばねたり、岩のすきまに石をはさんだり、岩塊や岩峰、ボルトやハーケンなどいろいろあるが、少々離れていても枯れていない腕より太い立ち木が一番よい。(もちろんひらめきも大切ですが、該当する立ち木を見つけることがもっとも早く確実です。たいていはあるものですが、もし無い時は代わりのものを とにかく根気よく捜します。)

これの根元に直接メインロープを掛ける。横向きにはえていたり、しなったりする時は支点用スリングをプルージックでセットして、それにロープを通す。

またメインロープが傷つく恐れのある時もカウヒッチでセットして、それにロープを通す。なお回収できるならカラビナを間に使うこと。回収できないならスリングは“捨て縄”になる。

A切れないロープとは、

耐荷重1トン以上が絶対条件です。必然的にロープは直径7mm以上、テープは幅20mm以上となります

(プルージックスリングだけは便宜上 直径5mm

後はこれらを傷つけないように使えばよい。踏んだり、岩角にこすらないこと!

なお、どうしても こすることがあるならテープより少しでも太いロープの方がよい

Bほどけないように体をつなぐとは、

糸なら適当にむすんでもほどけない。ヒモならしっかり結ばないとほどけてくる。

ロープになるとしっかり結ぶのも難しい。かといって“がんじがらめで後でほどけなくなった”では困る。時には命がかかるものだから、荷重しても勝手にほどけてきたりしないことはもちろん、何百キロのショックでかたくしまってもちゃんとほどける結び方をしなくてはならない。ほどけないでナイフでちょんぎっていてはそのつどロープが短くなって使い物にならなくなってしまう。(スリングは結ぶだけで30cmは必要。)

また難しいのも困る。簡単で種類も少ない方がいい。よって、結び方は前述の@8字結び、Aテープ結び、Bカウヒッチ、Cダブルフィシャーマン、Dプルージック、の簡単な5つと、Eクローブヒッチ、Fイタリアンヒッチの計7つを覚えるだけでよい。

これでもツライひとはACは@で代用してもよい。なお、使うことがなくてもGシートベンドも知っておくと便利です。逆にもやい結びは知らない方がいい。

   

 

どんな時にどう使うか

自分、メンバーにとって通過が“恐い”か、恐くなくても“危険”と判断した時、少々タイムロスしてもロープを出してほしい。

なお、こんな時ロープをつなぎあって行動する“コンテ”がよく本に書かれているが、道連れになって救出手段を失うだけなのでしてはいけない。

(これはプロガイドが雪山で使うものである。)

使い方は以下の登り(横ばい)と降りの2通りをマスターしてくれればいい。

*ここで登り(横ばい)は一番上手い者がある程度のリスクを覚悟して突破成功したとして話をする。

  もちろん誰も登れないならひきあげるべきで、先行者の墜落を止めるには装備が不適であり、技術的にも無理である。

(このリスクを排除するためにすごい装備と技術を使うのがクライミングです。)

また、先行者が“肩がらみ”や“腰がらみ”で後続者を確保(ビレイ)するのがよく本に書かれているが、これもコンテ同様してはいけない。

(これもプロガイドが雪山で使うものである。)

もし、先行者(リード)がロープを引きずって登り、後続者(フォロー)を確保(ビレイ)するなら、クローブヒッチでロープ中間部を支点のカラビナにつないでセルフビレイ(自己確保)をとった上で、ATCを使って後続を確保すべきだが、緩斜面ならエイトカンやイタリアンヒッチでも代用できる。(この時はエイトカンは小さい方の穴を使ってビレイする。)このシステムは雪山や沢登りでもよく使われていますが、クライミング同様 他人の命を担うことになるので先行者が墜落停止の経験がある場合にかぎります。(できれば経験してほしい。)

前置きが長かったが、まず登り、

@プルージック登高

確保してもらわなくても、以下の手順で簡単安全に後続できます。

@先行者が支点をとってロープをたらす。(分散支点がのぞましい。)

A後続者は個人装備を装着し、ロープにプルージックをセットする。

Bプルージックをスライドさせながら三点確保(手と足を同時には動かさずに移動すること)で登る。

プルージックはロープより4mm以上細いものがよく利く3回以上まけば3mmでも利く。これは結び目をにぎればスライドするが荷重がかかるとロックされるもので、上下両方に利くので登高機(アッセンダー)よりよく使われている。 ただし、落ちた時はなにもつかまないこと。またショックをかけて傷んだスリングは更新すること。(便宜上傷みやすいので、ショックなしでも早目に更新すること。)なお、スライドしにくい時は、ロープを傷めない様に軽く踏んでスライドさせてもよい。

なお、トラバース(横ばい)の場合は、ロープ両端に支点をとり、出来るだけ張った状態にして、プルージックをスライドさせていくか、 カラビナでセルフビレイをとるとよい。

・カラビナはスライドの手間がいらないが、万一どちらかの支点がこわれるとオシマイになります。ケースバイケースで使い分けてください。

・中間支点がある時は、ノービレイにならないように、先方にプルージックまたはセルフビレイをとってから今までのを解除すること。

分散支点をとるときの注意。

2本の木から荷重均等に支点をえる方法を分散支点といいますが、1つだけ注意してほしいことがあります。

それは2本の木を支点にするときは片方が折れても墜落しなうようにスリングの内側を一回ひねってカラビナをセットすることです。

なお、本によく書いてあるプルージックを2本セットして1本を足で立ち込んで垂直壁やオーバーハングを登るというのは技術的にかなり難しくヒーヒーいわされます。(やってみればすぐわかるが、することはまずない。)

次に降りる方法は、

A懸垂下降(ラッペル)

 本などで“肩がらみ”を教えているが、ロープが体にくいこんで痛い上、ミスると致命的であり、下降途中で止まってロープのからまりをとることができないので絶対やってはならない(だいたいこの痛みが耐えれる程の斜面なら私は普通に降りれる。)

 降りる時は以下の手順を厳守すること。

@個人装備を装着する。

A立ち木に支点をとる。(普通は捨て縄になります。)

Bセルフビレイをとる。

Cロープにエイトカンと必ずプルージックをセットする

Dセルフビレイを解除して下降する。

なお、エイトカンが無い時はイタリアンヒッチやATCで代用できる。

 (イタリアンヒッチの方がロープは傷むが、制動はよく利く。また、ATCはスピードが出るのでベテラン向け)

 

◎実際の効果

岩場の通過では、正直いって私はよほどのことがないかぎりロープをだすことはない。なぜなら、最初はロープなしには行けなかったのが岩場でロープワークを練習している内に“急坂慣れ、岩場慣れ”してしまい、結果的にロープ無しで行けるようになったからである。むしろロープよりもホームセンターで買った薄手のゴム引き軍手(280円)の方が岩をしっかりつかめて重宝しているくらいである。

でも、これもロープワークを練習した成果の一つであろう。“支点が不安で、たとえロープが気休めにしかなってなくても、緊張を和らげてくれて自分本来のクライミングムーブができるのがありがたい”と思ったことは事実多い。それまで登山道という“線”しか歩けなかったのが、“面”で行動できるようになったと思う。山の世界が広がったといえる。

なお、ロープワークはレベルによって見解が異なるから、今回の理論は絶対ではない。

しかし、初心者には最適のアドバイスをしたとおもっている。山は奥の深い“哲学”です。

 

 

注意:以上はオハヨー山岳会のロープワーク講習のために私が独自に作成したテキスト冊子で、実際は装備装着図、結び図、などのイラストがついています。詳しく知りたい方は山と渓谷社の“ヤマケイ登山学校11 沢登り” 若林岩雄著 と同じく “こんなときこんな結び方” 羽根田治著をご覧ください。

 

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